森薫『エマ』

潤子さん
本だけでなく、漫画も読みますよー。
なんでもオールオッケーな雑食司書、谷崎です。


さて。
メガネ繋がりで、森薫『エマ』を読んでみました。
アニメ化もされてますね。

エマ (1) (Beam comix)

エマ (1) (Beam comix)

19世紀末のイギリスが舞台。メイドのエマと、ジェントリ(上流階級)の跡取り息子ウィリアム恋物語
謹厳な老女ケリーの元で、メイドとして働いているエマ。
ある日ケリー宅へ、元教え子・ジョーンズ家の跡継ぎ息子ウィリアムがやって来る。
良く言えば「人が良い」、悪く言えば「優柔不断のボンボン」のウィリアムは、ケリーの家で働くエマに一目惚れ。
超奥手なアタックを繰り返し、エマと両思いになる。
ここまでは順調だったものの、身分差の壁は厚く……えー。こう書くと、何だかハーレクインロマンスみたいで、恥ずかしいんですが……そんな甘い話でもなく(甘い部分もありますが)、面白いです。


様々なところで言及されていますが、何より凄いのが、作者の時代考証
Wikipedia「エマ」の項に、

時代考証
この漫画はヴィクトリア期のイギリスの風俗を丁寧に描いているとして高く評価されている。一方で作者の設定上のミスもいくつか存在する。

  • 第一話でウィリアムは複翼式の飛行機模型を手に取っているが、このような飛行機が登場したのは20世紀に入って以降である。アニメでは19世紀にウィリアム・サミュエル・ヘンソンの発明した蒸気式飛行機(Aerial Steam Carriage)に変更された。
  • 第二巻の終わりで登場するキングズクロス駅プラットフォームの柱が鍛鉄製となっているが、これはユーストン駅のデザインであり、実際は煉瓦製の柱である。J・K・ローリングも『ハリー・ポッターと賢者の石』において同様の間違いをしている。アニメでは訂正された。

とあるのですが……逆に言えば、ここまで細かい指摘をしないと、粗が見つからないという事です。


世間のいわゆる「萌え系メイド」とは一線を画す漫画。オススメ致します。


<ここからはネタバレを含みます。
 大丈夫な方のみ、文字を反転させてください>
最終巻まで読みました。
うーん、世間で言われてるように、ラストは、少し急ぎすぎ&詰め込みすぎですね。
力技で、ハッピーエンドにした感じはします。
番外編も出るようなので、そこらへんで補完されるのかもしれませんが。


色んな感想で言われている通り、結局この物語、ウィリアムが全ての元凶ですねw
最初から、ウィリアムがハッキリしてれば、色んなゴタゴタは起きなかった訳で。
(まあ、そうなると、この漫画自体が成り立たないですけども)
逆に言えば、作者は、ウィリアムとエマとの隔絶を、的確に描いていると思いましたね。
寒村に生まれ、人買いに攫われるなど苦界を嘗めてきたエマの苦悩を、結局のところ、上流階級の跡取りとして育てられてきたウィリアムが、分かるはずがない。
ここでもし、ウィリアムがエマの苦しみを理解するようにもっていくと、物語は薄くなる訳ですねー。
物語内で、エマ視点/ウィリアム視点で切り替わるごとに、貧困や人の死に直面しているエマと、何だかんだ言って父親と喧嘩してる程度(?)のウィリアムとの差が、リアリティあって良かったです。

「ウィリアムのヘタレ具合に腹が立つ」という意見をチラホラ見かけますが、なんの、この漫画は、「ウィリアムがヘタレだから成り立つ漫画」なんですよ。
たぶん。